寿命はコントロールできる|老化のしくみと長寿生物に学ぶ不老長寿の科学

シリーズ 不老長寿の科学 特別編
開催日 2024年8月27日
講師 鮎沢 大(一般社団法人 不老長寿研究会 代表理事/横浜市立大学 名誉教授・客員教授)
形式 オンライン(Zoom)・無料

このセミナーでわかること

「不老長寿の科学」全4回のまとめとして開かれた特別編です。代表理事の鮎沢 大が、司会との対談形式で「寿命はコントロールできるのか」を考えます。人や生物はなぜ老化して死ぬのか、老化細胞は本当に「死んだ細胞」なのか、寿命は遺伝子でどこまで決まるのか、といった素朴な疑問から出発し、記録に残る長寿者や長寿動物に共通する暮らし方をたどります。後半では、普通の生活を続けながら細胞を若々しく保つことをめざす研究会の考え方「BGC理論(バランス・成長・浄化)」と、アーユルヴェーダの知恵との関係が紹介されます。

要点

なぜ生物は老いて死ぬのか──老化細胞の蓄積

講師の答えはシンプルです。体内に老化細胞が蓄積すると、組織や器官が機能不全を起こし、そこから老いと病と死が起こる、というものです。組織が正常であれば健康を保つことができますから、問題は「老化細胞が増えるか、増えないか」に集約されます。そして、細胞を老化させる原因として講師が挙げるのが、体内にたまる老廃物です。若返りとはこの逆で、細胞の老化を防ぐこと、そして老化してしまった細胞を若返らせることが鍵になる、と説明されました。

老化細胞は「死んだ細胞」ではない──4つの細胞死と細胞老化

細胞の死には4つの形式があると考えられてきました。終末分化(肌や髪、小腸のように入れ替わる細胞の死。体では毎日およそ1%の細胞が死んでいる)、ネクロシス(致命的なダメージで細胞が破裂し炎症が起こる、良くない死に方)、アポトーシス(体ができる過程や中程度のストレスで細胞が自ら死に、周りに吸収されて再利用される「きれいな死に方」)、そして弱いストレスが継続的にかかると誘導される細胞老化です。老化細胞は死んだ細胞の残骸と考えられてきましたが、講師らの研究では、老化細胞は生きていて、不可逆ではなく可逆であることが分かったといいます。核膜などの構造が変わり老化関連遺伝子が発現している状態で、これは細胞死ではなく生きるための重要な機能だと講師は位置づけています。

寿命を決めるもの──遺伝子は約2割、生活の影響が大きい

寿命に影響する要因として、講師はまず遺伝子を挙げます。体の形づくりや発生のプログラムは遺伝子で決まっていますが、寿命への遺伝子の関与はおおよそ20%程度とされ、生活環境や生活様式のほうがはるかに大きな影響を持つと説明されました。講師は私たちの体を「機械」にたとえます。機械は当然、経年劣化します。錆や振動による物理的な劣化に加え、体の中では酸化還元・加水分解・凍結融解・発熱発煙といった化学的な劣化が起こり、体が「ガタガタ」になっていきます。酸化とはつまり錆のことで、万物が劣化していくのは自然法則だ、という話でした。

劣化と自己修復のバランス──なぜ不死の生物はいないのか

ただし、私たちの体はただの機械と違って自己修復能力を持っています。組織の発生、DNAの修復、飢餓への耐性、酸化ストレスへの抵抗、生体浄化など多くの遺伝子がかかわり、この自己修復機能こそ生物のいちばん重要な特徴だと講師は言います。しかし多くの場合、自然劣化と自己修復のバランスは劣化のほうに傾いており、そのため寿命は有限になります。では、修復し続けて若いままの生物はいないのか。講師の答えは「存在しない」。生物は子孫を作って世代交代するものであり、世代交代を終えた個体の維持に多くのエネルギーや遺伝子を使うのは効率が悪いからです。生物はそうした無駄をしないため、ある程度まで生きたら生命が尽きるのが自然の流れになった、と説明されました。

記録に残る人の長寿と、その読み方

人は実際にどのくらい生きられるのか。講師は、各国の政府や公的機関が認めた過去の記録を集めると、インドのヨーガ行者には数百歳から700歳、中国の道教の道士には150〜300歳、日本でも江戸時代などに120〜200歳とされる記録が数多くある、と紹介しました。西洋にはこうした長寿記録がほとんどなく、そのためアジアの記録は信用されていない、というのが講師の見方です。ただし講師自身も「過去に戻って証明することはできず、あくまで過去の記録に基づくデータだと理解してほしい」と断っています。また、ギネス記録の長寿者は男女とも100歳前後にとどまりますが、申告制で評価が主観的・閉鎖的なこと、記録が頻繁に修正されること、欧米中心であることから、講師は「あまり信用できない」としています。

長寿動物に共通すること

動物の年齢は、いまも生きている個体を科学的に調べられるため信頼性が高いといいます。講師が示した一覧では、北大西洋のアイスランドガイ(二枚貝)が504年、ニシオンデンザメが392年、ホッキョククジラが268年、インド洋の孤島に住むゾウガメと高緯度の冷たい川に住む淡水真珠貝が250年、低温の深海に住む大型メバルが200年、米国の洞窟に住む洞窟ザリガニが175年、ニュージーランドの巣穴に住むムシトカゲが111年と、人より長生きする動物が数多くいます。最近話題のハダカデバネズミも30〜40年生きるそうです。生息場所を見ると、冷たい水の中など非常に厳しい環境で、ゾウガメ以外はみな水中で暮らしていることが共通しています。水中はエネルギーを使わずにすむ楽な環境だからです。長寿動物には、成長が遅い、動作が緩慢、代謝速度が低い、体温が低い、放射線の影響が少ない、といった特徴が共通しており、その中身を見ると「すべて代謝速度が低い」ことに行き着く、と講師はまとめました。

人の長寿者との共通点──「エコドライブ」

人の長寿と動物の長寿に共通点はあるのか。講師は「まったく一緒」だと言います。長寿動物は車でいえばエコドライブ。空ぶかしをせず、急発進・急停車をせず、ゆっくり走る。人の長寿者も同じで、禁欲的な生活を送り、インドや中国では瞑想やヨーガも行っています。食生活は小食・素食で植物中心、日本の精進料理に近いかもしれません。最近の日本の長寿者も、人間関係のストレスが少なく楽天主義の人が多いといいます。素食・小食・禁欲生活の3つは現代の生活に合うかという問題はあるものの、実践すれば今でも長寿になれる、というのが講師の見立てです。代謝速度が低いとは、老廃物や有害物を出さないということ。それは冒頭で挙げた細胞老化の原因そのものです。

普通の生活と長寿を両立させる「BGC理論」

禁欲的な生活は普通の暮らしでは難しい、という司会の問いに対して講師が紹介したのが、研究会の「BGC理論」です。禁欲生活をしなくても、好きなものを食べ、好きなことをして長寿になることをめざす考え方です。Bはバランス(Balance)=生体バランスの維持。老化で崩れた体内のバランスを正常化すると、細胞の老化が起こらないだけでなく老化細胞が若返ることを示したといい、「老化はコントロールできる」ことを意味する発見だと講師は位置づけます。Gは成長(Growth)=細胞増殖の刺激で、バランスを戻すだけでは弱い衰えた組織の再生までめざします。Cはクリーニング(Cleaning)=老化の原因である老廃物の除去で、活性酸素など体内の老廃物・生体毒素を取り除くことです。

アーユルヴェーダにあるB・G・C

講師は、アーユルヴェーダでは病気の原因を老廃物や生体毒素の蓄積と考え、生体浄化をもっとも重視してきたと説明します。日本ではアーユルヴェーダというとオイルマッサージなどのデトックスのイメージが強いものの、よく見ると生体バランスの維持(B)や細胞増殖の刺激(G)にあたる考え方も、5000年の歴史の中で不老長寿の理論として述べられているといいます。順序としては、まず老廃物をためない・入れないこと(C)が先に来て、それだけでは老化を完全に止められないので、BとGが出てくる。この3つがそろった理論だ、という整理でした。

不老長寿薬の探索とハーブ製剤の考え方

長寿にかかわる物質は世界中で探索されていますが、講師によれば「何一つ見つかっていない」。サーチュイン遺伝子などの長寿遺伝子も、信頼できるデータはないといいます。講師らが行き着いたのは、アーユルヴェーダのハーブ製剤でした。その特徴は単独でなく組み合わせて用いることで、有効成分の安定化や副作用の軽減につながる、インド5000年の知恵の結晶だといいます。東洋医学の目的はもともと不老長寿薬にあり、処方の記録は残っていますが、門外不出の秘伝で暗号化され、中身は分かりません。そこで講師らは自らBGC理論を組み立て、アーユルヴェーダの伝統ハーブを用いてその実践を研究していると述べています。

用語解説

  • 老化細胞:弱いストレスを継続的に受けた細胞が分裂を止め、老化関連遺伝子を発現している状態の細胞。死んだ細胞ではなく、生きている。
  • 終末分化:肌・髪・小腸の細胞のように、役割を終えて入れ替わっていく細胞の死に方。
  • ネクロシス:致命的なダメージで細胞が破裂し、内容物が漏れ出て炎症を起こす細胞死。
  • アポトーシス:細胞が自ら死に、周囲に吸収されて再利用される、体にとって「きれいな」細胞死。
  • 老廃物(生体毒素):活性酸素など、体内で生じて細胞老化を誘導する有害な物質の総称。
  • 自己修復能力:DNA修復や酸化ストレスへの抵抗など、生物が劣化を自ら修復するしくみ。
  • エコドライブ:急発進・急停車をせずゆっくり走る運転になぞらえた、代謝速度の低い暮らし方。
  • BGC理論:生体バランスの維持(Balance)、細胞増殖の刺激(Growth)、老廃物の除去(Cleaning)の3つで細胞を若々しく保つ、研究会の考え方。
  • サーチュイン遺伝子:長寿遺伝子として研究されている遺伝子。講師は「信頼できるデータはない」と述べた。

開催記録

正式タイトル:不老長寿の科学(特別編)「寿命はコントロールできる」
開催時の申込ページ:Peatix
主催:一般社団法人 不老長寿研究会 協力:横浜市立大学 生命ナノシステム科学研究科 長寿科学研究室、イチバンライフ株式会社

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