アーユルヴェーダによる若返り法|「長寿の科学」を細胞老化研究から読み解く
シリーズ 不老長寿の科学 第4回
開催日 2024年7月29日
講師 高氏 裕貴(一般社団法人 不老長寿研究会 理事/横浜市立大学 長寿科学研究室 客員研究員)
形式 オンライン(Zoom)・無料
このセミナーでわかること
「不老長寿の科学」シリーズ第1章の締めくくりとなる第4回では、インド亜大陸に伝わる伝承医学アーユルヴェーダを、現代の細胞老化研究の視点から解説します。アーユルヴェーダの語源や診療8科目、長寿を目的とした学問「ラサーヤナ」とは何か、西洋医学とどう違うのかを基礎から学べます。さらに、ハーブがなぜ健康に働くと考えられているのか(ポリフェノールなどの二次代謝物)、同じハーブでも産地や栽培法で成分が変わるという分析結果、そして古典に記された長寿レシピを再現して行われた細胞・動物・ヒトでの研究報告を紹介します。
要点
横浜市大の老化・若返り研究の結論——老廃物を取り除けば細胞は若返る
講師の所属する横浜市立大学の研究グループは、細胞の老化研究から出発して長年、老化と若返りの研究を続けてきました。その結論は「細胞内にたまる老廃物が細胞を老化させる。老廃物を取り除いて細胞をデトックスすれば細胞が若返り、体も不老長寿に近づく」というものです。第1回から第3回で解説してきた老化の基礎は、この結論に集約されます。興味深いのは、今回取り上げるアーユルヴェーダが、5,000年前から「老廃物が老化の原因であり、それを取り除けばよい」という同じ考え方を説いてきた点です。そこで研究グループは、アーユルヴェーダを不老長寿の実践に使えるのではないかと考え、科学的に分析する研究を進めています。
アーユルヴェーダとは——「長寿の科学」を意味する5,000年の伝承医学
アーユルヴェーダはサンスクリット語で、「アーユル」は長寿・生命、「ヴェーダ」は学問・科学を意味します。日本語に直せば「長寿の科学」です。インド亜大陸(現在のインド、スリランカ、バングラデシュ、ネパール、パキスタンなど)に伝わる、5,000年の歴史を持つ伝承医学です。世界には植物を利用する伝統医学が数多くありますが、アーユルヴェーダは1万〜2万種類の植物を利用するとされ、世界最大の植物利用学と言われています。漢方やユナニ医学とともに、WHO(世界保健機関)も推奨している伝承医学です。
診療8科目とラサーヤナ——長く元気に生きるための学問
現代の西洋医学に内科や外科があるように、アーユルヴェーダにも「診療8科目」という区分があります。内科、小児科、外科、耳鼻科、毒性学、精神科、不妊に対応する強精学、そして「ラサーヤナ」と呼ばれる長寿学です。ラサーヤナは長く元気に生きるための学問であり、研究グループはこの中に不老長寿のヒントがあるのではないかと考え、現代科学で読み解く研究をしています。アーユルヴェーダの古い経典には「長寿レシピ」が何種類も記載されています。伝説上もっとも有名なのが「ソーマ」で、山に生える根のような植物とされ、これを服用すれば不老長寿が得られると語られてきました。しかしソーマは絶滅したと考えられており、代わるものとして古代のアーユルヴェーダ医たちが考案してきたのが「ラサーヤナ製剤」です。伝説上では400歳、800歳まで生きられるとされてきました。
西洋医学との違い——対症療法と、全身をみる医学
私たちにもっとも馴染みのある西洋医学は物質科学に立脚しており、たとえば頭痛なら痛みの原因物質を抑える薬を使う「対症療法」が基本です。即効性があり効き目も強い反面、予期しない副作用が出ることもあります。一方アーユルヴェーダは全身をひとつの系としてみる医学です。頭が痛いとき、その原因は別の臓器にあると考え、その主因を取り除くためのハーブ製剤やオイルマッサージなどの施術を行います。ハーブを用いるため西洋医学に比べて副作用が少なく、体にやさしい医学とされています。病気の人には原因を取り除く施術を行い、健康な人には病気の予防と長寿を実現することを最大の目標としています。マッサージ、食事法、ヨーガなどさまざまな方法がありますが、主役はハーブ製剤です。約1万種類のハーブがそれぞれ異なる臓器に働きかけることで、全身の不老長寿を導くと考えられています。
ハーブはなぜ働くのか——植物だけが作る「二次代謝物」
ハーブや漢方が「効く」と言われるとき、その中の何が働いているのでしょうか。生き物はみな、DNAなどの核酸、タンパク質・アミノ酸、脂肪といった「一次代謝物」を持っています。動物は暑ければクーラーをつけたり部屋に隠れたりできますが、植物は外的ストレスが来ても動くことができません。そこで植物は、ストレスに対応するために動物には作れない「二次代謝物」を作ります。それが、よく知られるポリフェノールやフラボノイドです。これらは私たちが持つ一次代謝物と反応しやすく、タンパク質に結合するなどして遺伝子やタンパク質の働きを整え、健康効果につながることが分かっています。
同じハーブでも中身は違う——HPLC分析と「組み合わせ」の考え方
植物は育った環境に適応するために成分を作るため、栽培された環境によって成分が大きく変わります。講師のラボでは、育った畑が少し違うだけの同じハーブ4種を、成分分析装置HPLCで比較しました。見た目はまったく同じでも、有効成分として知られる成分のピークが出るものと、まったく出ないものがあったといいます。そのため研究では、成分分析をしっかり行って有効成分が含まれるものを使う、あるいは有効成分を同定するといった作業を重ねています。またハーブ製剤は単独のハーブを使うことはほとんどなく、複数を組み合わせて処方されます。組み合わせることで複合的な作用や相乗効果が生まれ、単独では出うる副作用を抑える処方も組まれてきました。ハーブの効能は栽培法・産地・収穫法に大きく依存する、というのが重要な前提です。
長寿レシピの再現——アムラを中心に合計40種のハーブ
研究グループは、古典に記された長寿レシピのひとつを再現し、そのラサーヤナ製剤(長寿製剤)でデータを取ってきました。中心となるのはアムラという果実で、アーユルヴェーダでもっとも有名な果実のひとつです。「神がもたらした最初の木」とも呼ばれ、生命を活性化して活力を取り戻すと伝えられています。そのほか合計40種類のハーブが配合され、アダプトゲンと呼ばれる神経系や内分泌系に働きかけるハーブが多数含まれています。個々のハーブについても世界中で研究論文があり、さまざまな作用が報告されているハーブを組み合わせることで長寿が導けるのではないか、という発想で研究が行われました。
細胞・動物実験で報告されたこと——ポリフェノール量、皮膚、光老化
まず再現したラサーヤナ製剤のポリフェノール量を測定したところ、多種類のポリフェノールが含まれ、約20mLの液体にワインボトル約1.5本分に相当するポリフェノールが含まれていたと報告されています。ポリフェノールは抗酸化作用が強く、さまざまなストレスから体を守り、生活習慣病や皮膚老化の予防に関わるとされています。次に皮膚の健康に重要な表皮の角化細胞の増殖を調べました。若い人の皮膚は約28日で生まれ変わりますが、加齢で細胞の増殖能力が落ちるとターンオーバーが衰え、シミやシワの原因になります。この製剤を加えると細胞の増殖が約10倍になったと報告されています。さらに皮膚老化の約8割を占めるとされる紫外線による「光老化」について、毛のないヘアレスマウスに水または製剤を飲ませてUVBを背中に照射する実験を行いました。水だけのマウスは紫外線が強まるほど背中がやけどのようにダメージを受け、表皮が厚くなりましたが、製剤を飲ませたマウスではダメージが抑えられ、表皮の肥厚も少なかったと報告されています。
線虫・マウスで報告されたこと——寿命と記憶力
寿命については、ヒト細胞と線虫の平均寿命がいずれも約30%延長したとされ、講師はマウス(哺乳類)でも検証中だと述べました。記憶力については、プールの中の透明な台にたどり着くまでの秒数で測る試験を行いました。若いマウスは訓練前60秒以上かかるところ訓練後は15秒でたどり着きますが、人の50〜60歳に相当する老齢マウスは訓練しても秒数が減りません。この老齢マウスに製剤を与えておくと記憶力の低下が抑えられたと報告されています。
まとめ——自分でできる努力に、ハーブ製剤を加える
講師は、ハーブやハーブ製剤は不老長寿に有効だと考えられる一方で、前回も示した「自分で普段できること」も欠かせないと締めくくりました。適度な運動、人間関係でストレスをためないこと、ポジティブ思考、暴飲暴食をせずバランスのよい食事をとること。こうした健康のための努力を続けながらハーブ製剤を取り入れることで、不老長寿の実現に近づけるのではないかというのが本セミナーの結論です。
用語解説
- アーユルヴェーダ:サンスクリット語で「長寿(アーユル)の科学(ヴェーダ)」を意味する、インド亜大陸の5,000年の伝承医学。
- ラサーヤナ:アーユルヴェーダの診療8科目のひとつで、長く元気に生きることを目的とした長寿の学問。その処方がラサーヤナ製剤。
- ソーマ:不老長寿をもたらすとされる伝説上の植物。すでに絶滅したと考えられ、代替として各種のラサーヤナ製剤が考案された。
- 対症療法:病気の原因ではなく、痛みなどの症状そのものを抑える治療法。
- 一次代謝物:核酸・タンパク質・脂肪など、生きているものすべてが持つ基本的な物質。
- 二次代謝物:植物が外的ストレスに対応するために作る、ポリフェノールやフラボノイドなどの物質。動物は作れない。
- HPLC:高速液体クロマトグラフィー。エキスに含まれる成分を分離し、ピークとして検出する分析装置。
- アダプトゲン:神経系や内分泌系に働きかけ、ストレスへの適応を助けるとされるハーブの総称。
- アムラ:アーユルヴェーダでもっとも有名な果実のひとつ。「神がもたらした最初の木」とも呼ばれる。
- ポリフェノール:強い抗酸化作用を持つ植物成分。生活習慣病や皮膚老化の予防に関わるとされる。
- ターンオーバー:皮膚が新しい細胞に生まれ変わるサイクル。若い人では約28日。
- 光老化:紫外線が原因で起こる皮膚の老化。皮膚老化の約8割を占めるとされる。
- ヘアレスマウス:毛のないマウス。皮膚への紫外線照射実験などに用いられる。
- 線虫:寿命や神経の研究によく使われる小さな実験動物。
開催記録
正式タイトル:アーユルヴェーダによる若返り法 ~伝説の不老長寿薬とハーブ製剤~(第4回/全4回)
開催時の申込ページ:Peatix
主催:一般社団法人 不老長寿研究会 協力:横浜市立大学 生命ナノシステム科学研究科 長寿科学研究室、イチバンライフ株式会社

