若返りの実践|運動・食事・サプリで老化を遅らせる科学

シリーズ 不老長寿の科学 第3回
開催日 2024年6月20日
講師 高氏 裕貴(一般社団法人 不老長寿研究会 理事/横浜市立大学 長寿科学研究室 客員研究員)
形式 オンライン(Zoom)・無料

このセミナーでわかること

老化のスピードは遺伝子で決まる部分が約2割、残りの約8割は生活習慣で決まると分かってきています。つまり、毎日の過ごし方しだいで老化を遅らせることができます。この回では、歩数・歩く速さ・筋トレ・ヨガといった「運動」、糖質制限やタンパク質の量、1975年ごろの日本食といった「食事」、そして「サプリ」について、国内外の研究データをもとに何が不老長寿に役立つのかを解説します。研究の多くは死亡率や認知症リスクといった分かりやすい指標で示されており、今日から実践できる目安が得られます。

要点

老化は「遺伝2割・生活習慣8割」

老化の進み方は遺伝と生活習慣のどちらの影響が大きいのか、多くの人が気になるところです。さまざまな遺伝子研究や双子研究から、遺伝子の影響は20%程度にとどまり、残りの80%は生活習慣によって老化のスピードが決まると分かってきました。言い換えれば、自分の生活習慣や努力しだいで老化を抑え、不老長寿を目指すことができるということです。この回では、運動・食事・サプリという身近なテーマについて、科学的な研究結果をもとに「何が良いのか」を順に見ていきます。

歩数・歩く距離が多い人ほど死亡率も認知症リスクも低い

1日の歩数と死亡率の関係を調べた研究では、1日4,000歩を基準にすると、2,000歩まで減った人は死亡率が2倍になり、心疾患やがんで亡くなる確率も大きく上がると報告されています。逆に8,000歩〜1万歩と歩数が増えると、死亡リスクは半減するとされています。また、約3,700人の高齢男性を7年間追跡した研究では、1日400メートル以下しか歩かない人は、3.2キロ以上歩く人に比べてアルツハイマー病などの認知症を発症するリスクが2倍以上高くなっていました。毎日しっかり歩いている人ほど、死亡率も認知症リスクも低いことが示されています。

「座りっぱなし」を減らし、歩く速さも意識する

座っている時間と死亡率の関係を、若い人から90歳までの男女1万7,000人を12年間追跡して調べた研究では、ほとんど座っている人が最も生存率が低く、ほとんど立っている人が最も生存率が高いという結果でした。さらに、65歳以上の約3万5,000人を対象に歩く速さと死亡率を調べた研究では、時速5.7キロ程度(速歩きに近い速さ)で歩ける人は65歳からさらに平均32年生きられるのに対し、時速700メートル程度しか歩けない人は余命が10年に満たないとされています。ただし講師は、65歳の時点で歩ける人はそれまで健康的な生活をしてきた人でもあるため、因果関係までは分からないという点も補足しています。

筋トレは「週40分程度」の適度な量が最も良い

週に何分筋トレをすると死亡率がどう変わるかを調べた研究では、週40分程度の筋トレを行った場合に死亡率が最も下がりました。一方で「やればやるほど良い」わけではなく、週2時間を超えるほど筋トレをすると、糖尿病以外の心血管疾患やがんなどのリスクが上がり、死亡率は筋トレをしない場合よりもむしろ高まると報告されています。適度な筋トレ、適度な運動が最も良いといえます。

運動やヨガは細胞レベルでも老化を抑えると報告されている

最近は運動の効果を遺伝子レベルで調べる研究も増えています。67歳の男女に12週間、週2日の筋トレとランニングを行ってもらい、血液中の細胞で老化した細胞が出す遺伝子(p21など)の量を調べた研究では、運動開始前より12週間後のほうがこれらの遺伝子が減っており、老化細胞が減っていると分かりました。また、肥満の男性に1日2時間の瞑想とヨガを行ってもらった研究では、90日後にテロメアを伸ばす酵素が50倍に増え、幸せホルモンと呼ばれるβ-エンドルフィンが約1.5倍に上がり、ストレスホルモンのコルチゾール、活性酸素量、炎症は下がったと報告されています。ヨガは筋トレやランニングに比べてけがのリスクが少ないため、特に高齢者におすすめの運動法として論文でも推奨されています。

糖質制限は体重は減るが、老化を早めることが分かってきた

低脂肪食・地中海食(オリーブオイルやナッツが多い食事)・糖質制限食を比べて体重の減り方を見た研究では、どれも開始から数週間で体重が下がりますが、糖質制限が最も体重が減っていました。ダイエットという点では糖質制限に効果があるといえます。しかし最近の研究で、糖質制限は老化を強く促進することが分かってきています。マウスに1年間、通常の餌と糖質制限の餌(人間でいえば3食とも主食をほぼ食べない程度の制限)を与えた研究では、糖質制限をしたマウスは見た目にも体が老化し、寿命は高脂肪食を食べたマウスよりもさらに短くなりました。学習能力や記憶力で見た脳の老化も、糖質制限で大きく進んでいました。

タンパク質が多い食事は、マウスでは寿命を縮めた

「健康のためにタンパク質をしっかり取ろう」と言われ、プロテインを積極的に飲む人も増えています。しかし、有名なマウスの研究では、高タンパク質・低炭水化物、低タンパク質・高炭水化物、低タンパク質・高脂肪の3種類の餌を比べたところ、高タンパク質・低炭水化物の餌では体重は下がるものの糖尿病などのリスクが高まり、寿命は短くなりました。逆に低タンパク質・高炭水化物の餌では代謝・健康度が上がり、糖尿病などのリスクが低く、寿命が最も長くなりました。高脂肪食は体重が大きく増え、寿命も短くなっています。この研究はセンセーショナルだったため多くの追試が行われ、他の研究でもタンパク質を制限した食事で寿命が最も伸びるという結果が出ています。研究会メンバーの細胞老化研究でも、老化した細胞には細胞内にタンパク質がたまっており、タンパク質をあまり作らせないようにすると細胞レベルで若返ること、また培養液のアミノ酸量を減らすと老化が抑えられることが報告されています。

人では「年齢」によってタンパク質の適量が変わる

厚生労働省が推奨するタンパク質の摂取量は、成人男性で1日60グラム、成人女性で1日50グラム、総摂取カロリーの14〜20%程度です。ところがアメリカの有名な研究で、50〜65歳と65歳以上の人を、タンパク質が摂取カロリーの10%以下の低タンパク質群、10〜19%の中タンパク質群、20%以上の高タンパク質群に分けて、その後の死亡率を追跡したところ、50〜65歳では低タンパク質群に比べて中タンパク質群で約1.7倍、高タンパク質群で約2.8倍死亡率が高く、がんで亡くなる確率も高タンパク質群で大幅に高いという結果でした。一方、65歳以上ではこれが逆転し、高タンパク質群のほうが死亡率は半分に下がり、がんで亡くなる確率も4分の1に下がっています。糖尿病については全年齢で高タンパク質群のほうが糖尿病で亡くなる確率が高いとされています。参加者の平均摂取カロリーは1日約1,900キロカロリーと日本人とあまり変わらないため、日本人にも当てはまりやすい結果だと講師は考えています。ただし日本の65歳はまだそれほど高齢ではないため、日本人であれば70〜75歳くらいからタンパク質を多めに取るのが良いのではないか、という見方も示されました。

1975年ごろの日本食が最も健康的で長寿だった

東北大学の研究で、1960年・1975年・1990年・2005年の日本人の食事の栄養素をマウスの餌に反映させ、それぞれを食べさせて比べたところ、最も寿命が短かったのは現代(2005年)の食事で、最も長かったのは1975年の食事でした。両者の差は人間に換算すると5年ほどに相当すると講師は述べています。記憶力で見た脳の老化度合いも、1975年の食事が最も良い結果でした。1975年ごろの典型的な献立は、発酵食品が多く、肉はほとんどなく、納豆や大豆、卵、果物などが多く、食材の種類も非常に多いのが特徴です。肉や揚げ物の多い現代の食事とは異なる、この時代の食事が最も健康的だったという結果です。

サプリは「単一成分の取りすぎ」に注意

今あるサプリは単一の成分だけを取り出したものが多く、それを摂取する人も多いのが現状です。しかし私たちの体には何万、何十万、それ以上の成分が存在しており、1つの成分だけを過剰に取るとバランスが崩れ、かえって不健康になるおそれがあると講師は指摘しています。単一成分のサプリには、そうした危険性もあることを知っておく必要があります。

まとめ:今日からできる不老長寿の実践

この回のまとめとして講師が挙げたのは次の点です。適度な運動は老化を抑え、健康寿命を伸ばす。ヨガはけがのリスクが少なく特におすすめ。糖質制限は老化を早めることが分かっている。高齢になるまではタンパク質を取りすぎないほうが死亡率や病気のリスクが減る。食事は1975年ごろの日本食が最も健康的だった。単一成分のサプリは体のバランスを崩す危険性がある。これらに加えて、人間関係などでストレスをためないこと、前向きでポジティブな思考が免疫力を高めることも科学的に分かってきており、普段からできることを積み重ねることが不老長寿につながると締めくくられました。

用語解説

  • 老化細胞:分裂を止めたまま体内に残り、炎症を起こす物質を出し続ける細胞のこと。p21などの遺伝子が目印として使われる。
  • テロメア:染色体の末端にある構造で、細胞が分裂するたびに短くなるため、細胞の老化度合いの指標となる。
  • テロメラーゼ(テロメアを伸ばす酵素):短くなったテロメアを伸ばす酵素で、その量は細胞の老化を見る指標の一つ。
  • β-エンドルフィン:幸福感に関わることから「幸せホルモン」と呼ばれる物質。
  • コルチゾール:ストレスを受けたときに分泌される「ストレスホルモン」。
  • 糖質制限:ご飯やパンなど糖質(炭水化物)を大きく減らす食事法。
  • 地中海食:オリーブオイルやナッツ、魚や野菜を多く取るイタリアなど地中海地方の食事。
  • 健康寿命:介護などを必要とせず、自立して健康に生活できる期間。

開催記録

正式タイトル:若返りの実践 ~リバースエイジングの時代~(第3回/全4回)
開催時の申込ページ:Peatix
主催:一般社団法人 不老長寿研究会 協力:横浜市立大学 生命ナノシステム科学研究科 長寿科学研究室、イチバンライフ株式会社

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